Takonosuke’s diary

 editor&writer バラの庭作り、そして釣り。東京ときどき信州在住。

「親父似!」

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部屋には書棚がない。なので、本は自動的に積みあがってゆく。ぬこが隠れそうだ。


指の動かし方がね

「俺、最近親父に似てきた?」
「あら、気がついたの」

  自分が突然「親父に似ている」と気づいた。そこで部屋に入ってきた妻に聞いた。すると、返ってきたのが、この答え。

 その後、妻はここぞとばかりにしゃべりだしたのだ。
「あなたが60歳を過ぎたころからかな。『いやだ、お父さんそっくり』と思ったの。どこがって? 座ってるところから立ち上がるときの動作。それに指の動かし方がね」

 指の動かし方ってなんだ。
 妻によると、樋口の男はものを言うことを惜しみすぎるのだそうだ。口で言うかわりに、指で指図する。え? そうなの。そんなやつって、ベスト三本指に入るやなやつじゃないか。
 いま、病を得ている俺は、広い慶應義塾大学病院のなかを移動するとき、妻に車椅子を押してもらうことがたまにある。すると、俺は無言であちこちを指差して指図するらしい。妻はその指の動かし方が親父そっくりなのだという。

「ほら、あたし、お父さんを介護してたでしょう。そのときの車椅子のお父さんとあなたのしぐさがそっくり」

 妻はおしゃべりだ。普段は俺が無口なのでそうはしゃべらない。だが、俺が不覚にも話を聞く態勢をとると、腰を据えてしゃべりだす。

「最近、歩く姿も似てきたわね。お父さん、ゆっくり歩いたのよね。亡くなる前は」
「……」
「あれ? あっ、そうじゃなくて」
 遅い。